まるでメルヘンなおとぎ話のような世界が立体的なジオラマ風になっている「360°Book」が海外で話題になっています。乙女な心にダイレクトに突き刺さるようなこのかわいさ、実ははドイツ生まれの日本人男性建築士によるものなのだ!
進化形・飛び出す絵本ともいえる「360°Book」。2012年に行われたレーザーカットのコンテスト「You Fab 2012」のFreeFab部門で優秀賞を受賞。あまりにすごすぎるので、今回はこの作品を手掛けた建築士、大野友資さんにメールでインタビューを行いました。
【世界を騒がせた「360°Book」】
「360°Book」は、建築で使う3Dの製図用ソフトウェアでデータをつくり、レーザーカッタ―で1枚ずつ切り抜いたものをボンドで張り合わせてあります。思いついてから最初の作品ができるまでは、わずか1週間。
「富士山」や「ジャックと豆の木」などさまざまなものがありますが、共通しているのはまるでそこに映画やお話のような世界観が広がること。絵本の中はヨーロピアンテイストながら、細部までこだわり抜いた繊細なつくりはどこか日本人らしさが覗えます。そして、日本の「かわいい」に通ずるものも確かにある。ヨーロッパを中心に多くのメディアが取り上げ、話題になりました。
【すごい経歴の持ち主なのだ】
大野さんは1986年ドイツのハンブルグ生まれ。10歳のときに日本へ帰国し、その後、東京大学建築学の修士号を取得。大学院時代は1年休学し、リスボンに住む建築家のアトリエにインターンにも行ったそうです。そこでは、デザインだけでなく、人生の楽しみ方について多くを学んできたそう。
現在、東京大学の講師もこなす傍ら、1級建築士として、台北と東京に拠点をおく建築デザイン事務所「NOIZ ARCHITECTS」に所属。これまでは台北の物件を多くに携わっていたそうですが、現在日本の竣工も進行中。今後大注目の若手建築士です。
【大野さんはドイツ生まれだそうですが、海外での生活は、その後の人生になにか影響はありますか? 帰国子女として、日本で苦労した経験は?】
―――子どもの頃だったので、帰国後日本の環境には比較的すんなり溶けこめました。幼少期を海外で過ごしていたからか、海外で仕事することやコミュニケーションを取ることには抵抗が少ないかもしれません。また、好きなデザインや色使いにはヨーロッパ的なものが多いかもしれません。360°Bookの反響は圧倒的にヨーロッパからが多いのですが、そういったことが関係しているのかもしれません。
【子どもの頃からデザインや建築に携わろうと思っていましたか?】
―――ドイツに住んでいた頃よく一緒に遊んでいた幼なじみのお父さんがいわゆる建築家で、彼の家も自分で設計したものでした。いわゆる海外のモダンデザインの家だったのですが、子どもながらに素敵な空間だなと感じていて、その頃から設計という仕事に興味を持っていました。
子どもの頃から図画工作的なことは好きでしたが、中学に入って数学や物理にも興味を持ち始めました。建築にはどちらも必要になるということで、職業として携わることを意識し始めたのはその頃だったと思います。
【作品を生み出すためには、どんなものからインスピレーションを受けていますか?】
―――なにか特別なリソースがあるわけではないのですが、日頃から少しでも面白いと思ったことは意識的に頭に焼き付けておくようにしています。そのとき、瞬間的にそれがなんで面白いのかを考えます。そのまま全く使われないこともありますが、なにかのきっかけでそういった記憶がランダムに結びついてアイデアに変わることがあります。
【360°Bookのアイデアを思いついたきっかけは?】
―――ある日、仕事でよくあるブロックメモを使っていて、たまたまページをめくったら他のページがくっついてきて、アコーディオンみたいに綺麗に均等に開いたんです。試しに360度に開いてみたら、そのまま円柱みたいな形になりました。
建築という職業柄、日頃から空間や立体について考えることが多いのですが、その円柱の中が洞窟みたいに繰り抜かれて空間になったら面白いなと思ったんです。しかも、この中に登場人物が入れば立体的な絵本のようになる。そう考えたら、色々とできそうなことが頭の中で膨らんで、その週末にすぐに試作しました。
【最近、注目していることはありますか? デザインにおいて「2015年はこんなものが流行る!」などありましたら教えてください。】
―――最近注目していることは、漠然としていて申し訳ないのですが、「無駄」についてです。建築やプロダクトでは、ここしばらくは無駄なものは極力排除すべきで、シンプルなものが好まれる傾向にありました。でも、最近僕がいいなと思うものはどこか装飾的だったり享楽的だったり、無駄な要素を受け入れているものが多いような気がするんです。遊びや余裕とも通じるのかもしれません。でも意識してそのバランスを保つことはとても難しいと思います。少し間違えると偽物っぽさやチープさが勝ってしまいますから。
無駄はよくないという常識を軽やかに飛び越えた、新しい豊かさをもったデザインが受け入れられるようになると思いますし、自分もそこに挑戦したいと思っています。
【来年2月、六本木にて展示出品予定】
2015年2月には、個人プロジェクトとして六本木にある「21_21DESIGN SIGHT」で開催される展示に出品する予定で、現在その作品の準備に追われているそう。大野さんの作品を間近で見るチャンス! また、360°Bookシリーズは定期的に発表するようなので、今後も新作に目が離せません。
【何気ない日常を作品に展開する“天才”】
誰にも思いつかなかった画期的な作品を手がけた凄腕の大野友資さん。話を伺ってみるととっても真面目で素直な方でした。ほとんどの人がスルーしたり、忘れてしまうような何気ない日常や経験を実に巧妙に、作品へと展開していく。それもひとつの「天才」なのであります。
参照元:loftwork.com
取材・ 執筆=黒猫葵 (c)Pouch / 協力=大野友資さん
▼男性がつくったとは思えない”かわいい”絵本ワールドをご堪能ください!
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