世界でもっとも権威ある音楽賞、グラミー賞。先日行われた『第61回グラミー賞授賞式』にて、ある曲が4つもの賞に輝きました。
最優秀楽曲賞と最優秀レコード賞、最優秀ラップ/サング・コラボレーション賞、そして最優秀短編ミュージックビデオ賞を受賞した作品が、チャイルディッシュ・ガンビーノさんの『This Is America』。
主要部門である楽曲賞とレコード賞を獲得した史上初のヒップホップ楽曲、という大快挙。そして日本でも話題になったのは、日本人映像作家のヒロ・ムライさんが手がけたMVの受賞です。
発表が2018年5月とやや前の『This Is America』ですが、そのMVを1度も観たことがないのであれば、これを機会に観てみてはいかがでしょうか……きっと、とんでもない衝撃を受けることでしょう。これは、現在のアメリカにはびこる暴力や差別を明瞭に描いた映像なのです。
※凄惨なシーンが登場するので、そうした映像が苦手な方にはおすすめしません。
【最初はハッピーだったのに…】
かろやかなコーラスと、柔らかなアコースティックギターの音色から始まる『This Is America』は、はじめこそハッピーな空気に満ち溢れています。
ところが開始から48秒ほどで、「さっきまでギターを弾いていた黒人ミュージシャンが、頭から袋をかぶらされている」という、予想だにしなかったシーンが目に飛び込んでくるんです。誘拐・監禁の被害者のようにも見えます。
【目をそむけたくなる差別と暴動がはじまる】
間髪入れず、 “ジョジョ立ち” を連想させる奇妙なポーズで銃を構え、ミュージシャンの頭を撃ち抜くガンビーノさん。これは、黒人に対する暴力や人種差別の撤廃を訴える運動「Black Lives Matter」のきっかけとなった、2012年のトレイボン・マーティン射殺事件を表していると言われています。
ここから怒涛のごとくはじまるのは、激しい差別と暴動。冒頭のかろやかなメロディーとは真逆ともいえる低~いベース音が鳴り響きます。
舞台は移り、楽しそうに歌うゴスペル隊が登場。しかし、そこに来たガンビーノさんはマシンガンで全員を射殺してしまいます。これは2015年にアメリカ・ソースカロライナ州の教会で起きたヘイトクライム事件を表しているとされていますが、いずれにせよあまりのむごさに観ていて辛くなってしまいます。
激しい暴動を背にして楽しそうに踊りまくるティーンの姿は、差別に目を向けず流行を楽しむ若者たちのことを描いているようにも見えます。
【「これがアメリカだ(This Is America)」】
それにしても、やはりハッとさせられるのは、残酷な描写をバックに「これがアメリカだ!」と歌っているところ。
アメリカ社会を覆っている光と影を、終始不穏なコントラストで見せていくこのMV。観ている自分の鼓動がどんどん速くなっていくことがわかるんです。
【YouTubeのコメント欄も興味深い】
MVが初めて公開された当時も大きな話題となりましたが、今回のグラミー賞受賞でさらに注目度は高まり、2019年2月16日の時点での再生回数は、驚異の約5億回を記録しています。
YouTubeのコメント欄には、ムライさんに対する日本語での祝福メッセージがみられる一方で、
「ダンスやスマイルは、私達の目を現実からそらさせる娯楽だ」
「ガンビーノが見せる表情も、どんどんエスカレートしていく背景も、アメリカだけでない全世界を表している」
「3分1秒あたりに出てくる17秒間の沈黙は、1年間に失われた17人のためのものなのだろう」
といった具合に、考えさせられるコメントも多々。
背景を知れば知るほど、差別の問題が近年特にクローズアップされているグラミー賞の授賞式を、今回ガンビーノさんが欠席したことにも納得せざるを得ません。
MVの最後、なにかに追われて鬼気迫る表情を浮かべるガンビーノさんから、あなたは何を感じるでしょうか。
参照元:YouTube
執筆=田端あんじ (c)Pouch
▼ガンビーノさんは、俳優ドナルド・グローヴァーとしても活躍しているほか、映画&ドラマプロデューサー・脚本家・コメディアンとしても成功しているスゴイ人!
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