【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは中村倫也主演映画『水曜日が消えた』(2020年6月19日公開)です。5月15日に公開予定でしたが、映画館の営業自粛により、公開が延期。約1ケ月遅れになりましたが、無事公開されました~。良かった良かった!

だって中村倫也ファンにとっては、彼のひとり七役が観られる貴重な映画なのですから。では物語からいってみましょう。

【物語】

火曜日。僕(中村倫也)が目を覚ますと、隣に見知らぬ女性が寝ていました。それは月曜日の僕が連れ込んだ女性でした。僕は多重人格者であり、7つの人格が一つの肉体に宿っている男なのです。

1週間、曜日ごとに入れ替わるキャラクターはそれぞれ、その日にあったことをメモに残すことが約束されています。そんな僕の秘密を知っているのは、友人の一ノ瀬(石橋菜津美)と安藤医師(きたろう)だけ。しかし、ある日、水曜日の僕が消えてしまったのです。

【主役は火曜日の「僕」…とても素直で可愛い中村倫也が登場】

多重人格を扱った映画は多く存在しますが、まさかの7重人格! ひとり7役というのはなかなか見応えがありました。

ドラマが動き出すのは水曜日の僕が消えて火曜日の僕が水曜日も生きることになってからです。

実は火曜日は、すべての家事を行い、安藤医師のもとへ治療に通うという、いちばん地味な1日を送っている人物。そんな彼が水曜日も過ごすことになり、読書好きの彼は「火曜日が休館日の図書館にも水曜日ならば行ける!」と、ワクワクしながら出かけて、なんと図書館に勤める美人さんに恋までしてしまいます。そんな火曜日の中村さんがとっても可愛いです!

【7つの人格がお互いを認めながらボディシェア】

本作の魅力は、多重人格を肯定的にとらえているところです。主人公は最初から、多重人格であることを自然に受け止めています。別人格が存在し、身に覚えのない行動をとっていることを知って恐怖!という映画はこれまでもありましたが、本作はそれぞれのキャラが友好的にコミュニケーションをとっているところが面白い。

火曜日は、いちばんチャラい月曜日が女遊びをしたり、部屋を散らかしても「やれやれ」といった感じ。1週間、7つの人格が仲間意識を持って、ひとりの人間のボディをシェアしているのが多重人格の新しい解釈だなあと思いました。

【ひとつの作品で正反対のキャラを大熱演】

ところが、1週間のうち、月曜日が他の曜日を裏切るところから本作はスリリングな状況に突入します。実は水曜日が消えたのも月曜日の仕業で、彼は他の曜日の人格をひとつひとつつぶそうとしているのです!

この身勝手で荒っぽい月曜日を演じる中村さんは、素朴な火曜日と同一人物とは思えない凄みを感じましたね! カメレオン俳優と言われる中村倫也ですが、この映画を観るとその言葉に納得できます。

デビューしていきなり売れたわけではなく、地道に演技力を高めてきた俳優ゆえに、何色にも染まれるのが強み。ほんわか火曜日と荒くれ者の月曜日の演じ分けもパーフェクトで、本作はその演技力をいかんなく発揮しています。

何より「ほんわかな中村倫也(火曜日)」VS「荒くれ者な中村倫也(月曜日)」が観られるなんて、この映画だけでは!

【思いがけない展開、最後に残る人格は?】

肉体を乗っ取りたい欲望が強い月曜日の暴走を止めるにはどうしたらいいのか。幼少期の交通事故で人格が分裂した主人公の本当のキャラクターは何曜日なのか。

すべてを知る安藤医師の行動にも疑問を抱かせながら、物語は意外な着地点を見せるのです。これまでの多重人格物語とはひと味違うラストに驚きました! ぜひ劇場で観てみてくださいね。

中村倫也の七変化が観られると同時に、多重人格の解釈や自分の体で違う人生を歩むことについてなど、いろいろとイマジネーションが膨らむ良作。これは中村倫也ファンではなくても、ぜひ映画館で観ていただきたい作品です!

執筆:斎藤 香 (c)Pouch

水曜日が消えた
(2020年6月19日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督・脚本・VFX:吉野耕平
出演:中村倫也、石橋菜津美、深川麻衣、中島歩、休日課長、きたろうほか