【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、ロンドンで家政婦をしている女性が「クリスチャン・ディオール」のドレスに魅せられて、パリ本店に買いに行くお話『ミセス・ハリス、パリへ行く』(2022年11月18日公開)です。

夢と希望と温かさに包まれた、とーっても可愛い作品で、ぜひ観ていただきたく大プッシュします! では、物語からいってみましょう。

【物語】

第二次世界大戦後のロンドン。ミセス・ハリス(レスリー・マンヴィルさん)は、夫が戦死して悲しみの中にいるけれど、気丈に振る舞い、懸命に働いています。

そんなある日、家政婦として働いている家で掃除中にクリスチャン・ディオールのドレスを目にして一目惚れ。「ディオールのドレスが欲しい!」と、お金を貯めてパリの本店へ向かいます。

ところがディオールはセレブ専門の高級メゾン。マネージャーのコルベール(イザベル・ユペールさん)に身分不相応だと追い返されそうになるのですが……。

【いくつになっても夢を追いかけて】

久々に映画を観たあと、幸せな気持ちに包まれました。とにかくハリスさんのキャラクターが最高なんです。

戦争で夫を亡くし、ひとりで頑張って生活しているときに出会ったディオールのドレス。ひと目見たときから、ハリスさんのテンションが爆上がり!

「私もディオールのドレス欲しい!」→「でもお金がない」→「じゃあ稼ぐしかないじゃない」と考えるのですが、節約したり、仕事量を増やしたりするだけでなく、ドッグレースに賭けてみたりするんです。

「パリへ行って、ディオールのドレスを買う!」という夢のために張り切るハリスさん。イキイキとしてゆく彼女がとても可愛い!

【素敵なファッションショーにうっとり!】

パリ行きの資金が貯まり、ドレス代を握りしめてパリへ向かうハリスさん。

ところがディオールはセレブ専門の高級メゾンで、貴族や有名人などを顧客としており、まさに一見さんお断りのハイブランド。ハリスさんはマネージャーに追い払われそうになるのですが、コレクションを見に来た侯爵の配慮で席を用意してもらえるというラッキーが起こります。

ここで展開されるディオールのショーが素敵なんです〜。次々と登場するドレスには、ハリスさんだけでなく、映画を観ているこちらも胸が高鳴ります! 「永遠に見ていられる〜」って思いましたよ。

【ディオールのスタッフの心を変えるのは…】

さて、ショーに登場した素敵なドレスを買うことになったハリスさん。

ドレスが完成するまでの数週間、会計係の親切な若者が泊まる場所を用意してくれたり、ディオールのメゾンでお針子の仕事を勧められたり、素直でほっこりしたハリスさんの人柄にディオールのスタッフも癒され、とても親切にしてくれます。

いつもニコニコしていて、気遣いのできるハリスさんの良い人オーラに人が集まってくるという展開も良き。

そして、彼女と接しているうちにディオールのスタッフは気づくんです。このメゾンは上流階級を顧客としているけれど、本当にディオールのドレスを愛し「大好き!」と思ってくれる、ハリスさんのような人にも着てほしいと。

ディオールのドレスは夢! とパリへやってきたハリスさんが、その情熱でメゾンのスタッフの心まで変えてしまう……。

いくつになっても夢を持ち、それを実現するために頑張ることで人生は動いていく。ハリスさんがそれを教えてくれるのです。

【ディオールの裏側も覗けちゃいます】

本作はハリスさんと一緒に、高級メゾンのマネージャーに会計、モデルやお針子たちの仕事などバックヤードも見られるのも魅力。

華やかなモデルの仕事も肉体的な苦労があったり、メゾンでは美しいディオールの服に身を包んでいるスタッフも実は、私生活はシンプルだったり、ハリスさんを取り巻くキャラクターも深く魅力的に描かれています。

特にハリスさんに冷たく当たるマネージャーのコルベールさん。最初は意地悪なヒール役のキャラかと思ったら……! 彼女の素顔も見逃せませんよ。

夢を持つことが人生を豊かにして、ハッピーを運んでくれる。

おとぎ話みたいだけど、実はあながち嘘じゃないと思うんですよね。ハリスさんの勇気と行動力、そして周囲の人への思いやり、見習いたくなるし「私も頑張ろう」と思わせてくれる本当に素敵な作品です。

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:ⓒ 2022 FOCUS FEATURES LLC.

■今回紹介した作品

『ミセス・ハリス、パリへ行く』
(2022年11月18日より、 TOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイント他全国ロードショー)
監督:アンソニー・ファビアン
原作:ポール・ギャリコ著「ハリスおばさんパリへ行く」
配給:パルコ ユニバーサル映画
出演:レスリー・マンヴィル、イザベル・ユペール、ランベール・ウィルソン、アルバ・バチスタ、リュカ・ブラヴォー、エレン・トーマス、ローズ・ウィリアムズ。ジェイソン・アイザックス