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お盆は、ご先祖さまがあの世から帰ってくるという時期。それにともない、不思議な出来事が多くあるといいます。

今日はお盆にちなんで、私自身が体験した不思議な出来事をご紹介します。

【祖父母の服を形見分け】

7年前の夏に、祖父と祖母が相次いで亡くなり、持ち物を形見分けすることになりました。その中に、日本舞踊を教えていた祖母の扇子や着物、祖父がお芝居に使っていた三度笠などがありました。

あまりにもたくさんあったため、友人たちがやっている劇団に、小道具として少しもらってくれない?と相談しました。

その劇団は史実を現代風にアレンジした演目を上演するため、着物などを多く使います。家にしまっておくより、何かに役立ててもらったほうが良いだろうし、お芝居や踊りが好きな祖父母も喜ぶかもしれない。

劇団は二つ返事でもらってくれることに。すぐさま着物などを箱詰めして送りました。

【不思議な夢】

さて、荷物を送ってからしばらくして、私は夢を見ました。

壁も天井もまっしろな、とても大きな部屋。そこで若い女の子たちが舞台の準備をしていました。

壁の鏡の前でメイクをしたり、アイロンをかけたり、縫い物をしたりと、女の子達はみんな忙しそうでした。そして私は出演者の女の子達の手伝いをしていました。女の子達の衣装は全員着物で、紺や紫、小豆色を中心にしたものでした。

【おさげの女の子がやってきて……】

すると、まっ白な天井の一部が四角く開き、女の子がひょこっと顔を出しました。女の子はハシゴもつかわずに、ふわっと天井の穴から飛び降りると、私の方へまっすぐ歩いてきました。

その子は16歳くらい。小豆色の着物姿で、足元は草履を履いていました。彼女の髪はギュッと引っ張りながら編んであり、胸まで届く長い三つ編みをしていました。現代風の三つ編みというより、昔の教科書などに出てくる「女学生のおさげ髪」そのままなんです。

お芝居のためにこの髪型にしたとすれば、かなり再現度が高いなあと私が思っていると、女の子は私のところへまっすぐ歩いてくると、にこにこしながら「みどりちゃんは踊らないの?」と聞きました。

その子の目を見た私は、自分が舞台に出ないことをなぜかとても気まずく感じました。そして「私はねえ、出ないんだぁ……」とだけ答えました。

すると女の子は「へえー、そうなんだあ」とちょっと寂しそうにしながら微笑みました。私が黙っていると「じゃあまたね」と彼女は言って、ひとりで天井裏にあがって行きました。降りた時と同じように、とても身軽でした。

【夢から覚めて気づく】

部屋の中では、女の子たちが相変わらず忙しそうに舞台の準備にいそしんでいます。そこへ舞台効果で使っているらしいスモークの白い煙が流れてきており、その煙にまかれた私は、少しずつ夢の中から遠くなっていくのを感じていました。

そのとき、私はハッと気がつきました。「そうか! あの女の子、おばあちゃんだ……!

亡くなった方は、死後その人がいちばん元気で、楽しく過ごしていた時代の姿に戻る、と聞いたことがあります。あの子がニコニコしているときの目元や顔の表情には、祖母の面影があったのです。

ああ、もっと早く気がついてあげれば良かった! おばあちゃんごめんね! 夢に出てきたあの白い部屋に帰りたいけど,もう戻れません。私は泣きながら目を覚ましました。

【夢と現実と】

その夢を見てしばらくした後、祖母の衣装を譲った劇団の公演を見に行くと、演目の途中に踊りのシーンがありました。それを見た私は本当にビックリ。

なんと、私の夢の中に出てきた女の子達の着物と、この日に登場した役者たちの衣装が、全く同じ色や柄だったのです。「みどりちゃんは踊らないの?」祖母が聞いていたのは、まさしくこの舞台のことだったのですね。自分の着物を着て舞台に立つ孫の姿が見たかったのかもしれません。

亡くなった祖母は、私が学生時代からやっていた演劇やミュージカルを見に来てくれていました。そしていつも楽しそうに、あれこれと感想を述べていたのです。

今は演劇ではなく、好きな音楽をほそぼそと続けている私ですが、祖母が亡くなった夏になると、この出来事を思い出します。そして、もう少し年をとったら三味線でも習ってみようかな、と思うのです。着物姿で舞台に上がれるくらい、上達できるかなあ。

画像:ぱくたそ
執筆=はちやまみどり (c)Pouch