【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは第92回アカデミー賞でカズ・ヒロさんがメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した映画『スキャンダル』(2020年2月21日公開)です。
この映画は、2016年にアメリカニュース放送局で視聴率1位を誇る「FOXニュース」で実際に起きたセクシャルハラスメント事件を題材に、登場人物たちもすべて実名で描かれたもの。
シャーリーズ・セロンがカズ・ヒロさんの特殊メイクにより、実在する人気キャスターの顔に激変したのが話題になりましたが、ヴィジュアルだけでなく中身も見ごたえありましたよ! では物語から。
【物語】
FOXニュースの元人気キャスターのグレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)は、TV局のCEOロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)をセクハラで訴える準備をしていました。
同時期、若く野心に溢れたケイラ・ボスビジル(マーゴット・ロビー)は、ロジャーに自分を売り込む大胆な行動に出ますが、そこで彼に「スカートを持ち上げて脚を見せろ」と迫られてしまいます。
一方、人気キャスターのメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)は、大統領選に立候補していたトランプの女性蔑視発言を追及していましたが、その矢先、ロジャーがセクハラで訴えられたことがトップニュースに! メーガンの心はざわめきます。彼女も過去、ロジャーにセクハラされていたからです。
【グレッチェンの捨て身のセクハラ告発】
とにかくセクハラCEOのやることなすこと、本当に腹立たしかったですね! こんな男が権力を握って好き放題してきたなんて、その番組が全米ナンバー1の視聴率だなんて、なんかもうムカムカしっぱなしでした。
そんなCEOへの女性陣の逆襲の発端は、グレッチェン・カールソン。彼女がロジャーのセクハラな誘いに応じなかったためにクビにされ「こんなことあってはならない!」とロジャーを訴えたことです。
アメリカ国民はビックリ! テレビ業界を牛耳る超権力者を訴えたわけですから「あの女、つぶされるぞ」と巷では言われていましたが、なんと「私もセクハラされました!」と被害者が次々と名乗りをあげていったのです。みんなボスににらまれたら死活問題なので我慢してきたんですね。その被害者の中に、当時人気キャスターだったメーガン・ケリーもいたのです。
【メーガン・ケリーの戦略】
メーガンは大人気キャスターゆえに、ロジャーを裏切ることに躊躇していました。彼女はトランプの女性蔑視発言にガンガン噛みつくほど強い女ですが、ロジャーには逆らえない。
でも被害女性たちが名乗りを上げたことで、メーガンの心も傾いていくというわけです。ただ個人的にメーガンは好きになれなかったですねえ。訴えに乗ったのは、彼女なりの計算があったからで、女性の地位向上のためとか、正義感とか、女性社員を守るためとか、そういう理由じゃないと思う。でもきれいごとじゃないところが逆に実話のリアリティなのかもしれません。
と、メーガンをディスってしまいましたが、シャーリーズの変貌ぶりと熱演は凄みがありました。細かいパーツを使ってシャーリーズの顔をメーガン顔に変身させたカズ・ヒロさんの特殊メイクはもはや神レベル!アカデミー賞受賞も納得です。
【若き野心家ケイラへの共感度が高い理由】
『スキャンダル』で、私がいちばん共感したのは「FOXニュースでスターになりたい」と邁進していく野心家のケイラ。ケイラは架空の人物で、セクハラ被害にあった女性数人がモデルになっています。
ロジャーの身も毛もよだつセクハラの事実を、観客はケイラを通して知ることになるのですが、マーゴット・ロビーの演技が生々しくて、もうかわいそうでかわいそうで……。「断って部屋から出ていけばいい」と第三者は思うけれど、ロジャーの圧は凄くて「みんなやっていることなんだ」と、自分に言い聞かせて、震えながら言うなりになっちゃったんだなあと。でも彼女は被害者のままじゃ終わりません。どうやって屈辱を乗り越えるかをしっかり見てほしいです。
『スキャンダル』で描かれた実話が起こったのは2016年。つい数年前の出来事で、すべて実名で映画化されているというのが素晴らしい! アメリカは表現の自由が守られているんですねえ。日本もこういう映画が実名で作られるようになればいいなあ。いろいろ考えさせられる映画『スキャンダル』。女子同士で観て語り合ってほしい映画です。
執筆:斎藤 香(c)Pouch
『スキャンダル』
(2020年2月21日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:ジェイ・ローチ
出演:シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、ジョン・リスゴー、ケイト・マッキノン
©Lions Gate Entertainment Inc.
▼こちら実際に起きた当時のニュース
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